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東京高等裁判所 平成6年(行ケ)136号 判決 1998年3月03日

ドイツ連邦共和国ヴュルツブルグ1・

フリードリッヒーケーニッヒーシュトラーセ4

原告

ケーニツヒ・ウント・バウエル・アクチエンゲゼルシヤフト

同代表者

デイーター・イエンセン

ヴオルフガング・ルツクマン

同訴訟代理人弁護士

牧野良三

同訴訟復代理人弁理士

久野琢也

東京都千代田区霞が関3丁目4番3号

被告

特許庁長官

荒井寿光

同指定代理人

木下幹夫

長島和子

田中弘満

廣田米男

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

この判決に対する上告のための付加期間を90日と定める。

事実

第1  当事者の求めた裁判

1  原告

(1)  特許庁が平成5年審判第14316号事件について平成6年1月21日にした審決を取り消す。

(2)  訴訟費用は被告の負担とする。

2  被告

主文第1、2項と同旨

第2  請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

原告は、昭和62年6月10日、名称を「枚葉紙輪転印刷機で枚葉紙を搬送する胴とドラムの駆動ギヤ間の遊びを調整するための装置」とする発明について、1986年(昭和61年)6月10日及び1987年(昭和62年)2月12日にドイツ連邦共和国においてした特許出願による優先権を主張して、特許出願(昭和62年特許願第143461号)をしたが、平成5年3月17日、拒絶査定を受けたため、同年7月19日、審判を請求した。そこで、特許庁は、この請求を、同年審判第14316号事件として審理し、平成6年1月21日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年2月23日、原告に対し送達された。なお、原告のため、出訴期間として90日が付加された。

2  本願発明の要旨(特許請求の範囲第1項の記載)

単色または多色枚葉紙輪転印刷機で枚葉紙を搬送する胴とドラムの駆動ギヤ間の遊びを調整するための装置であって、胴とドラムの軸が枚葉紙輪転印刷機のサイドフレーム内で高さの異なる2つの平面上に交互に支承された形式のものにおいて、枚葉紙を搬送する胴(5.1;5.2)およびドラム(10.1;10.2)の全部が各モジュール(1.1;1.2)のサイドフレーム(7.1;7.11;7.2;7.22)内で偏心ブシュ(16;27)内に旋回可能に支承されていることを特徴とする、枚葉紙輪転印刷機で枚葉紙を搬送する胴とドラムの駆動ギヤ間の遊びを調整するための装置(別紙図面(1)参照)

3  審決の理由

別添審決書理由記載のとおり(引用例については別紙図面(2)参照。なお、引用例記載の考案を、以下「引用考案」という。)

4  審決を取り消すべき事由

審決の理由のうち、「(手続の経緯・本願発明の要旨)(引用例)(対比)」については認めるが、「(当審の判断)」については争う。

審決は、本願発明と引用考案との間における相違点について判断するに当たり、相違点に係る本願発明の構成が引用考案から容易に推考することができたものと誤って判断し、かつ本願発明の奏する顕著な作用効果を看過した結果、本願発明は引用考案に基づいて容易に発明をすることができたとした点において違法であるから、取り消されるべきである。

(1)  本願発明の構成の予測可能性について(取消事由1)

ア 本願発明における「モジュール」について

機械の分野における「モジュール」とは、ある器具又は機械における交換可能な複合的要素であって、一つのまとまった機能単位をいうものである。

そして、本願発明における「モジュール」とは、「枚葉紙を搬送する胴(5.1;5.2)と渡しドラム(10.1;10.2)の全部を、サイドフレーム内において偏心ブシュ(16;27)内に旋回可能に支承する枚葉紙搬送装置(機構)」をいうものであり、このことは、本願明細書の記載から明らかである(本願発明の特許請求の範囲第1項、発明の詳細な説明中における「問題点を解決するための手段」(5頁20行ないし6頁4行)、「発明の効果」(6頁19行ないし7頁9行)、「実施例」(7頁6行ないし9行)の各記載参照)。

したがって、本願発明における「モジュール」とは、印刷機械が有する上記以外の装置(機構)、すなわち、紙等を送り込む供給装置、装着された版にインキを与えるインキ装置又は着肉装置(版胴、ゴム胴等を含む装置)、画像が印刷された紙などの被印刷物を取り出す装置等を含むものではなく、それら全部を含む印刷機能単位(印刷機)そのものとは異なって、印刷機の一部分(下方部分)を構成するものを指す。

その点において、本願発明の「モジュール」とは、被告の主張に係る、ひとまとめの印刷装置の単位である「ユニット」とは異なるものであり、ユニット型輪転印刷機が周知であったとしても、モジュール構成による輪転印刷機が周知技術でないことは明らかである。

イ 本願発明における偏心ブシュの配置について

本願発明は、印刷機のうち、枚葉紙の搬送のみに貢献する胴(圧胴及び渡しドラム)の全部が、各モジュール(各モジュールは相互に取り外しが可能である。)のサイドフレーム内に配置され、偏心ブッシュ内に旋回可能に支承されていることを必須の要件とするものであり、この構成は、引用考案の二重偏芯軸受装置とは全く異なり、新規なものである。

そして、本願発明は、この構成により、各モジュール内及び隣接するモジュールとの間のギヤの遊びを厳密、簡単、正確に調整することができ、印刷する色の数に応じて、その都度臨機応変にモジュールを組み合わせることができる等、後記(3)のとおりの作用効果を奏するものである。

ウ 他方、引用考案及び審決において周知技術として挙げられた昭和56年実用新案登録願第38243号の願書に添付の明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルムに係る考案においては、偏心ブシュのある胴は、引用考案では受渡胴のみ、上記周知技術とされた考案では版胴のみであり、前者の圧胴、後者のゴム胴のいずれにも偏心ブシュはなく、不動に固定されている。

また、引用考案は、単一のモジュール内に取り付けられた3組の印刷機械間の受渡胴と圧胴との間のギヤの遊びを調節するものであって、複数のモジュールの存在をまったく予想しないものである。したがって、「直接隣接した2つのモジュールの駆動接続を形成するギヤ間の遊び」(本願明細書6頁17行及び18行)をどのように調整するかは、発明者の意識にすら上っていない。

エ このように、本願発明は、引用考案とは技術的思想を異にするものであり、本願発明の「モジュール」及び偏心ブシュの配置の構成は、引用考案から容易に推考される余地がないものである。

したがって、本願発明の、引用考案との相違点に係る構成が、引用考案から容易に想到されるものとした審決の認定判断は誤りである。

(2)  本願発明の作用効果の予測可能性について(取消事由2)

ア 本願発明は、上記のとおりの構成により、引用考案に比べて、次のような顕著な作用効果を奏するものである。

(ア) 圧胴と渡しドラムとの間に生じたギヤの遊びを、所定の許容誤差範囲内において極めて厳密に調整することができる。

(イ) 上記ギヤ間に生じた遊びを、簡単な形式で、しかも迅速に調整することができる。

(ウ) 直接隣接した2つのモジュールの駆動接続を形成するギヤ間の遊びの調整に、特に優れた効果を発揮することができる。

(エ) 印刷すべき色の数に応じて、又は、渡しドラムないしは圧胴が故障した場合にはその都度、モジュールを取り外したり、組み合わせたりすることができる。

(オ) 各モジュール内及びモジュール間のギヤ同士の遊びの調整及び組立て時間を著しく減少させることができ、組立ての労力を大いに節約できる。

(カ) 多数のモジュールを並列させてモジュール間のギヤの調整をすることができるため、多色印刷に極めて有利である。

(キ) 枚葉紙の走行、引渡等についての運転テストを、他のユニットの構成部分(印刷塔部分。ゴム胴、インキ装置を含む。)とは別個かつ無関係に、簡単、迅速に実施することができる。

(ク) モジュールと印刷塔を別個に製作して組み立てることができる。したがって、例えば、モジュールをヨーロッパで、印刷塔を日本でそれぞれ製作し、その他の国で印刷機を組み立てることも可能である。

イ 上記のうち、ア(ア)の作用効果について詳述するならば、以下のとおりである。

(ア) 本願発明においては、圧胴と渡しドラムの両方に偏心ブシュを設けているため、圧胴と渡しドラムのギヤ間の遊びの調整に際して、各偏心ブシュを、常に、選択可能な初期位置としての零位置N及び出発位置Aから回動させることができる。

そのため、本願発明では、各モジュールのサイドフレームの製作誤差に基因する各ギヤ間の遊びを調整するための、各偏心ブシュの回動量については、容易に予測することができる。なぜならば、零位置N及び出発位置Aを特定することによって、偏心ブシュの回動量とギヤ間の遊びの調整量との関係を、幾何的に容易に特定することができるからである。言い替えると、各ギヤ間の遊びを解消するために、各偏心ブシュをどの程度回動させるべきかは、特定された零位置N及び出発位置Aに基づいて、直ちに正確に予測することができるからである。

このことを、別紙図面(1)第1図に従い説明するならば、

a まず、ギヤ2.1(圧胴5.1)の中心17と、ギヤ3.1(渡しドラム10.1)の中心17.1と、偏心ブシュ27の中心13.1を、直線30上に位置させるとともに、ギヤ2.2(圧胴5.2)の中心17.2と、ギヤ3.2(渡しドラム10.2)の中心17.3と、偏心ブシュ27の中心13.2を、直線30.1上に位置させて零位置Nを特定する。

また、ギヤ2.1(圧胴5.1)の中心17と、偏心ブシュ16の中心8.1を、直線31上に位置させるとともに、ギヤ2.2(圧胴5.2)の中心17.2と、偏心ブシュ16の中心8.2を、直線31.1上に位置させて、出発位置Aを特定する。

したがって、零位置N及び出発位置Aは、直線30、30.1及び直線31、31.1の配置によって実質的に特定されることになる。

b 次に、各モジュール1.1、1.2の各偏心ブシュ16を回動させて、ギヤ2.1とギヤ3.1間及びギヤ2.2とギヤ3.2間の遊びの調整をする。

これを、以下、モジュール1.2を中心に、別紙図面(3)により説明するならば、ギヤ2.2とギヤ3.2間の遊びを±zとして、この遊びを調整するために偏心ブシュ16を右又は左に僅かに回動させると、それに応じて、ギヤ2.2の中心17.2も右又は左に移動し、ギヤ間の遊び±zは完全に調整される。

17.21及び17.22は、ギヤ2.2の新たな中心を示すものであり、直線31.1に関してほぼ対称的に位置している。

このときの偏心ブシュ16の僅かな回動量±θ及び新たな中心17.21、17.22は、零位置N及び出発位置Aに基づいて、すなわち直線30.1、31.1の配置に基づいて、調整すべき遊び±zを示すものとして幾何学的に容易に特定される。

c また、偏心ブシュ16のこの回動は、ギヤ2.2とギヤ3.2間の遊びの調整と同時に、モジュール1.1と1.2間のギヤ2.2とギヤ3.1間の遊びにある程度の影響を生ぜしめる。この影響は、ギヤ2.2とギヤ3.1間の遊びの増減量±z’として、偏心ブシュ16の回動量±θと、直線31.1と、中心17.1及び17.2を通る直線32とから、幾何学的に容易に特定される。

したがって、ギヤ2.2とギヤ3.1間の当初の遊びを±xとすれば、偏心ブシュ16を回動させた後のこの遊びは、±z’±xとなる。

d ところで、この遊びの増減量±z’は、出発位置Aを変更することによって、すなわち直線31.1を、例えば反時計回りにある程度回転変位させた構成を採用することによって、更に減少させることができ、必要ならば直線31.1を直線32に重ね合わせた構成とすることによって、ほぼゼロにすることもできる。

したがって、ギヤ2.2とギヤ3.1間の遊び±z’±xは、出発位置Aを適当に選択することによって、確実に調整可能な許容範囲内の大きさに維持することができる。

e 次に、ギヤ2.2とギヤ3.1間の遊び±z’±xを調整するために、偏心ブシュ27を右又は左に僅かに回動させる。すると、それに応じて、ギヤ3.1の中心17.1も右又は左に移動し、ギヤ間の遊び±z’±xは完全に調整される。

ここで、17.11及び17.12は、ギヤ3.1の新たな中心を示す。このときの偏心ブシュ27の僅かな回動量±φ及び新たな中心17.11、17.12は、零位置Nすなわち直線30と、直線32の配置に基づいて、調整すべき遊び±z’±xを示すものとして幾何学的に容易に特定される。

f また、ギヤ3.1の偏心ブシュ27のこの回動は、ギヤ2.2とギヤ3.1間の遊び±z’±xの調整と同時に、ギヤ2.1とギヤ3.1間に、新たな小さな遊びyを生ぜしめる。この新たな小さな遊びyは、偏心ブシュ27の僅かな回動量±φ、もしくはギヤ3.1の中心17.1、17.11、17.12と、直線30の配置に基づいて、幾何学的に容易に特定することができる。

この場合、零位置Nに基づいて、ギヤ3.1の中心17.1と偏心ブシュ27の中心13.1が直線30上に位置していることから、中心17.11及び17.12は、直線30に関して対称的に位置し、しかも、中心17.1と17.11を通る直線及び中心17.1と17.12を通る直線が、それぞれ直線30に対してほぼ直角をなすため、この新たな小さな遊びyは、中心17.1、17.2の移動方向にかかわらず、極めて小さな値となる。

g 以上のように、本願発明では、常に偏心ブシュ16、27の不動の中心(8.1、8.2、13.1、13.2)を回動の中心として、各ギヤ(2.1、3.1、2.2、3.2)の中心(17、17.1、17.2、17.3)を零位置N及び出発位置Aから移動させることによって各ギヤ間の遊びを調整しているため、各ギヤの中心(17、17.1、17.2、17.3)の移動経路は極めて単純であり、したがって、既知の零位置N及び出発位置Aに基づいて、偏心ブシュ16、27の回動量±θ、±φ、もしくは新たな中心17.11、17.12、17.21、17.22を容易に特定することができる。

そのため、調整の結果によりギヤ2.1とギヤ3.1間に生じた新たな小さな遊びyは、その大きさが新たな中心17.11又は17.12から容易に予測できることから、この遊びyの大きさに影響する零位置N及び出発位置Aを前記のように適当に選択することによって、確実に、要求される許容誤差範囲以内に維持することができることになる。

(イ) これに対し、引用考案においては、別紙図面(2)第4図に示されているように、受渡胴11の軸芯60は、直径の小さい第1偏芯輪7と直径の大きい第2偏芯輪8とからなる二重偏芯軸受4によって、圧胴16の軸芯47と、圧胴26の軸芯51に対して、それぞれ移動調節が可能である。

また、受渡胴11の第1、第2偏芯輪7、8の初期位置については、同図にあるように、「第1、第2の偏芯機構の偏芯の方向は受渡胴とこれに接している圧胴の軸芯を結ぶ方向であることが好ましい」(引用例9頁8行ないし11行)と考えられる。

そこで、同図に示された構成に基づく二重偏芯軸受4による調節を、本願発明の偏心ブシュ16、27による調整に対応させて説明するならば、

a まず、圧胴16の軸芯47と、受渡胴11の軸芯60との間の距離を調節するには、第2偏芯輪8を同図に示された初期位置から右又は左に回動させることが必要である。

この場合、第2偏芯輪8は、直径の小さい第1偏芯輪7を軸承しているため、第2偏芯輪8の中心58を回動中心として、第1偏芯輪7を初期位置から移動させることにより軸芯60を移動させることになる。

以下、別紙図面(4)を用いて説明することとし、軸芯60の上記移動後の新たな軸芯を601、602、第1偏芯輪7の新たな中心を571、572、第2偏芯輪8の回動量を±θとする。

b 次に、受渡胴11の新たな軸芯601、602と、圧胴26の軸芯51との間の距離を調節するために、第1偏芯輪7を右又は左に回動させることが必要となる。

この場合、受渡胴11の軸芯601、602は、第1偏芯輪7の新たな中心571、572を回動の中心として、更に移動することになる(別紙図面(4)において、この移動後の最終的な4通りの軸芯を6011、6012、6021、6022として表示する。)。

c このように、受渡胴11の軸芯60は、二重偏芯軸受4による調節に際して、第2偏芯輪8の中心58を回動の中心として移動した後に、もはや初期位置にない第1偏芯輪7の新たな中心571、572を回動の中心として、再度移動することになる。

そのため、その移動経路は非常に複雑なものとなって、移動後の受渡胴11の軸芯、とりわけ4通りの軸芯6011、6012、6021、6022を正確に予測することは極めて困難であるといえる。

したがって、受渡胴11の軸芯が601から6011、6012へ、もしくは602から6021、6022へ移動した際に、受渡胴11と圧胴16の歯車間に新たに生じた遊びyを正確に予測することは、非常に困難であると考えられる。

d また、受渡胴11の軸芯の移動を示す、601と6011、601と6012を通る直線及び602と6021、602と6022を通る直線は、第1偏芯輪7の中心が、第2偏芯輪8の回動に伴って57から571、572に移動することにより、圧胴16の軸芯47と受渡胴11の軸芯601、602を通る直線に対して、もはや直角ではなく、第2偏芯輪8の回動量±θに相当する角度だけ、直角から外れた角度をなしている。

したがって、受渡胴11と圧胴16の歯車間に新たに生じた遊びyは、第1、第2偏芯輪7、8の好ましい初期位置においてさえ、その後の第2偏芯輪8の回動量±θに基づいて、必然的にある程度の大きさを有するものと予測される。

e 以上のとおりであるから、引用考案においては、受渡胴11と圧胴16の歯車間に新たに生じた遊びyを正確に予測することが非常に困難であるばかりか、この遊びが、第2偏芯輪8の回動量±θに基づいて、必然的にある程度の大きさを有するに至るものと考えられるところから、これを許容誤差範囲内に確実に維持することは、著しく困難又は不可能というべきである。

(ウ) 以上によれば、本願発明の奏する前記アの作用効果のうち、(ア)についてみても、それが引用考案から到底予測できない優れたものであることは明らかである。

ウ 本願発明における前記ア(イ)、(ウ)、(オ)の作用効果についても、更に述べるならば、

(ア) 本願発明による機械が、印刷する色の数に相応して1つ又は2つ以上の、前後に配置されたモジュールから構成される場合、例えば、5つのモジュールのそれぞれに各1個の圧胴及び渡しドラムを設けた構成による場合においては、まず各モジュール毎(モジュール1.1ないし1.5)に、各圧胴(5.1~5.5)と各渡しドラム(10.1~10.5)のギヤ(2.1と3.1、~2.5と3.5)間の遊びを一度に全部調整し、続いて、ギヤ2.1~2.5の位置を変えないで、隣接するモジュール(1.1と1.2、1.2と1.3、~1.4と1.5)間において、各渡しドラム(10.1~10.4)と各圧胴(5.2~5.5)のギヤ(3.1と2.2、3.2と2.3、~3.4と2.5)間の各遊びを一度に全部調整することができる。

このように本願発明においては、印刷すべき色の数に応じて、その都度臨機応変にモジュール歩取り外したり、組み合わせたりすることができ、しかも、各モジュール内及び隣接するモジュール間のギヤ間の遊びの調整を簡単に行うことができるため、組立時間を著しく減少させることができ、組立のための労力を大いに節約することができる。

(イ) これに対し、引用考案に係る装置は、単一のモジュール中に3ユニットの装置が組み込まれていて、それぞれのユニットを、取り外し可能に連結することができない構成のものであって、複数のモジュールの存在を全く予想し得ないものである。したがって、例えば、別紙図面(2)第1図において、圧胴16にいったん供給された紙Pは、仮に圧胴16を含むユニットのみを使用する単色印刷であって、圧胴26及び36を含む後続の2つのユニットを使用しない場合であっても、排紙装置41にまで送られる必要があるから、後続の2つのユニットの運転を停止することはできず、不要な労力と費用を用いることになる。

また、単色印制の場合において、例えば1つのユニットが故障した場合には、全ユニットの運転を停止させなければ修理することができない。

(ウ) 以上のとおり、本願発明は、上記の点についても顕著な作用効果を奏するものである。

エ 本願発明のその余の作用効果についても、引用考案の達成することができない優れたものであり、引用考案からは予測し難いものであることは明らかである。

オ なお、上記ア(エ)のうち、渡しドラム又は圧胴が故障した場合に、その都度、モジュールを取り外したり、組み合わせたりすることができる作用効果及びア(カ)ないし(ク)の作用効果は、本願明細書に明示はないが、当業者の技術常識からみて自明のものと認めることが可能である。

カ 以上のとおりであるから、本願発明は、その奏する作用効果の点においても、当業者が引用考案から到底予測し得ない優れたものであり、容易に想到し得ないものであることは明らかである。したがって、これを容易に想到し得るものとした審決は、その点においても誤っている。

第3  請求の原因に対する認否及び被告の反論

1  請求の原因1ないし3の各事実は認める。

同4は争う。

審決の認定、判断は正当であり、審決には原告主張の違法はない。

2  取消事由についての被告の反論

(1)  取消事由1について

ア 本願発明における「モジュール」について

(ア) 本願発明における「モジュール」とは、「装置、機械、システムを構成する部分で、機能的にまとまった部分」(新村出編「広辞苑(第4版)」株式会社岩波書店平成3年11月15日発行2538頁)を意味するものであることは明らかであり、原告の主張するように、枚葉紙を搬送する部分のみの機能に限定されるものではない。

なお、原告の主張する「モジュール」の定義に従ったとしても、本願発明における「モジュール」としては、「一つのまとまった機能単位」の大きさを自由に選択できるものであるから、1色分の印刷機能を「モジュール」とすることも可能である。

このように、1色分の印刷機能単位を構成する印刷装置も、「モジュール」という用語の概念から排除されるものではない。

また、本願明細書における「発明の詳細な説明」の記載についてみても、「このようなモジュールは例えば多色枚葉紙輪転印刷機の下方部分であり、その中に圧胴と渡しドラムとが支承されている。」(7頁1行ないし4行)と記載されており、印刷機の下方部分のみの構成は、「モジュール」の一例として記載されているにすぎない。

したがって、本願明細書の「発明の詳細な説明」の記載を参酌しても、1色分の印刷機能単位を構成する印刷装置は、「モジュール」の概念から排除されるものではなく、「モジュール」を、印刷塔とは別個に製作されるものに限定して解すべき理由はない。

(イ) 一方、1色分の印刷機械の単位については「ユニット」と呼ばれ、「ユニット」を数台連結したものは「ユニット型」と呼ばれている(日本印刷学会編「印刷事典」大蔵省印刷局昭和34年11月10日発行441頁、印刷技術一般刊行会編「印刷技術一般(改訂版)」産業図書株式会社昭和44年2月15日発行364、375頁)。

(ウ) 以上によれば、「モジュール」で構成される枚葉紙輪転印刷機から、ユニット型枚葉紙輪転印刷機が排除されるものでないことは明らかである。

そして、上記(イ)のとおり、ユニット型枚葉紙輪転印刷機が周知技術である以上、「モジュール」で構成される枚葉紙輪転印刷機は周知技術であるといえる。

イ 偏心ブシュの配置について

(ア) 本願発明と引用考案は、いずれも、軸がジグザグ状に連続配置され、その軸芯間の相対距離の調整を、軸に配置した偏心輪によって行う点において一致している。

その上で、本願発明が、偏心輪をすべての軸に配置したのに対し、引用考案が、一方側に配置した軸芯位置を固定し、他方側に配置した軸に2方向の調整機構である2軸偏心輪を配置した点において、両者は相違する。

(イ) しかしながら、二重でない単独の偏心ブシュにより軸芯位置を調整することは、従来から周知の技術であり(審決に摘示の昭和56年実用新案登録願第38243号の願書に添付の明細書、図面の内容を撮影したマイクロフィルム参照)、また、引用例の記載からみるならば、引用考案は、一方側に配置された軸芯位置を固定するという制約条件の下に、上記構成を採用したものであることが認められ、その制約条件がなければ、単に、ジグザグ状に連続配置された軸芯間の相対距離を適切に調整すればよいのであるから、引用考案において、各軸をすべて動かして相対距離を調整することは、当業者が容易になし得たことである。

しかも、引用例には、調整機構として偏心輪が記載されているのであるから、本願発明のように、すべての軸に調整機構である偏心輪を配置することは、当業者が容易になし得たことというべきである。

(ウ) したがって、審決が、胴及びドラムの全部を、サイドフレーム内において、偏心ブシュ内に旋回可能に支承させることは、当業者が容易になし得た程度のことであると判断した点について、誤りはない。

(2)  取消事由2について

ア 本願発明におけるギヤ間の遊びの調整に関する作用効果について

圧胴と渡しドラムとの間に生じたギヤの遊びを、所定の許容誤差範囲内に厳密に調整することができるか否かは、偏心半径、ピッチ円半径、圧胴軸芯と受渡胴軸芯のなす角度、出発位置の向き等、様々な設計条件によって決定されるものであり、本願発明の要旨から直接生じる作用効果ではない。

一方、引用例には、「歯車列の各歯車の相互のかみ合いのガタを小さくすることが必要であり、したがってそのような調節が可能な軸受装置が要求されるようになってきた。」(3頁1行ないし4行)と記載されていることから、引用考案は、ギヤ間に生じた遊びを、許容誤差範囲内に小さくすることを意図していることは明らかであり、そのように設計されることも当然のことである。

したがって、本願発明が、特定の設計条件を与えられることにより、ギヤ間の遊びを許容誤差範囲内に確実に維持することが可能であるならば、引用考案も、特定の設計条件を与えられることにより、ギヤ間の遊びを許容誤差範囲内に確実に維持することが可能であるといえるから、この点に関する両者の作用効果には格別の差異はない。

イ 原告主張のその他の作用効果について

前記(1)アのとおり、ユニット型印刷機は、ユニットを幾つか連結したものであり、周知技術である。

そして、本願発明について、原告の主張するその他の作用効果は、単に引用考案に上記周知技術を適用することにより生じるものであるに過ぎないか、もしくは、モジュールが印刷塔と別個に製作されるものであることを前提とする、本願発明の要旨に基づかないものであるかのいずれかであることが明らかである。

したがって、それらの作用効果をもって、本願発明が、予測し難い顕著な作用効果を奏するものと認めることはできない。

ウ 以上のとおりであるから、本願発明の作用効果についての審決の認定判断にも、誤りはない。

第4  証拠

証拠関係は、本件記録中の書証目録に記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

第1  請求の原因1ないし3の各事実(特許庁における手続の経緯、本願発明の要旨、審決の理由の要点)については当事者間に争いがない。

また、引用例の記載内容、本願発明と引用考案との一致点及び相違点についても、当事者間に争いがない。

第2  本願発明の概要について

成立に争いのない甲第2号証(本願発明についての特許願書及び願書添付の明細書)によると、本願発明の概要は以下のとおりであることが認められる。

1  本願発明は、単色又は多色枚葉紙輪転印刷機において、枚葉紙を搬送する胴とドラムの、各駆動ギヤ間の遊びを調整するための装置であって、胴とドラムの軸が、枚葉紙輪転印刷機のサイドフレーム内において、高さの異なる2つの平面上に交互に支承された形式のものに関する(本願明細書3頁13行ないし18行)。

2  印刷装置から印刷装置に対し、見当合わせを保持した枚葉紙の引渡しを可能とするためには、枚葉紙を搬送する胴とドラムの、互いに噛み合うギヤの遊びが、100分の1mmの範囲内になければならないが、枚葉紙を案内する胴を支承するサイドフレームの製作誤差は、特にモジュールとして構成された基礎フレームにおいて、通常10分の1mmの範囲内にあるため、組立時にギヤ間の遊びがほとんどないように調整するための装置が存在しなければならない(同4頁3行ないし12行)。

3  本願発明の課題は、サイドフレーム内に支承された、互いに噛み合わされたギヤ間の遊びを、補助回転部材を使用せずに調整することを可能とする、枚葉紙輪転印刷機の枚葉紙を搬送する胴とドラムのギヤ間の遊びを調整するための装置を見出すことである(同5頁13行ないし18行)。

4  本願発明は、上記課題を解決するため、要旨記載の構成を採用したものである(同5頁20行ないし6頁4行)。

5  本願発明の実施例を別紙図面(1)に基づいて説明するならば、次のとおりである。

(1)  別紙図面(1)第1図には、多色枚葉紙印刷機の2つの下方部分1.1と1.2が、同一のモジュール1.1、1.2として示されており、このモジュールの上に、予め製作された印刷塔が載置される。

モジュール1.1及び1.2のサイドフレーム7.1、7.11、7.2、7.22には、それぞれ圧胴5.1、5.2と、渡しドラム10.1、10.2が支承されている。

モジュール1.1における圧胴5.1の、ギヤ2.1を備えた軸4.1は、各偏心軸受6.1、6.11内で、回転可能に、モジュール1.1の両サイドフレーム7.1、7.11内に支承されている。

偏心軸受6.1の位置固定的な中心8.1は、上方の水平な平面E上にある。

ギヤ2.1は、下方の水平な平面F上にある渡しドラム10.1のギヤ3.1と噛み合っている。

ギヤ3.1の軸9.1は、両サイドフレーム7.1、7.11内の各偏心軸受11.1、11.11内に回転可能に支承されている。偏心軸受11.1の空間固定的な中心13.1は、平面F上にある(同7頁6行ないし8頁6行)。

(2)  第1のモジュール1.1に第2のモジュール1.2が組み立てられると、ギヤ3.1は、第2のモジュール1.2の圧胴5.2のギヤ2.2と噛み合わなければならない。

ギヤ2.2の軸4.2は、両サイドフレーム7.2、7.22内の各偏心軸受6.2、6.22内に支承されている。

第1のモジュール1.1の偏心軸受6.1、6.11と同様に、偏心軸受6.2、6.22の位置固定的な中心8.2は、上方の平面E上にある。

ギヤ2.2は、渡しドラム10.2のギヤ3.2と噛み合う。

渡しドラム10.2の軸9.2は、ギヤ2.2の左側に並んで下方の平面F上に位置し、同様にサイドフレーム7.2、7.22内の各偏心軸受11.2、11.22内に支承されている。

偏心軸受11.2、11.22の中心は平面F上にある(同8頁6行ないし20行)。

(3)  モジュール1.1のサイドフレーム7.1内の支承孔14内に、偏心ブシュ16が配置されており、この偏心ブシュは、中心8.1を中心にして小さな調整角度φで、例えば±4°内で旋回可能である。もちろん、サイドフレーム7.11内にも、偏心ブシュ16が配置されている。

渡しドラム10.1と10.2は、相当する偏心ブシュ27内に支承されている。

偏心ブシュ16は、支承孔14の内半径rIに等しい外半径rAを持つ。

偏心ブシュ16の内半径rEの中心17は、支承孔14の中心8.1に対して距離eだけ偏心して位置している(同9頁16行ないし10頁7行)。

(4)  “出発位置”Aでは、圧胴5.1、5.2の中心17、17.2及び支承孔14の中心8.1、8.2は、平面Eに対して角γ(例えば65°)をなす直線31、31.1上にあるか、又はこの直線のすぐ近くにある。

“零位置”Nでは、渡しドラム10.1、10.2と配属の軸との共通の中心(回転軸線)17.1、17.3及び偏心軸受11.1、11.2のための支承孔14の中心13.1、13.2は、中心13.1、13.2と、圧胴5.1、5.2の中心17、17.2とを通る直線30、30.1上、又はこの直線30、30.1の直近位置内において、偏心半径eに等しい間隔を置いて位置している(同11頁19行ないし12頁11行)。

(5)  互いに噛み合うギヤ(2.1と3.1、3.1と2.2、2.2と3.2)の歯間の遊びの調整は次のように行われる。

工程1

圧胴5.1、5.2をすべて“出発位置”Aとし、各モジュール1.1、1.2の渡しドラム10.1、10.2をすべて“零位置”Nとし、かつロックする。

工程2

各モジュール1.1、1.2内で、圧胴5.1、5.2と渡しドラム10.1、10.2の関係する、ギヤ2.1と3.1、2.2と3.2間の遊びを調整する。偏心ブシュ16を回動させることにより、ギヤ2.1、2.2を、測定された出発時の遊びに応じて多少深く、ギヤ3.1、3.2の歯と噛み合わせ、遊びを調整する。

サイドフレーム7.11、7.22内に支承された操作側の偏心ブシュ16を同様に調整する。

工程1と工程2により、モジュール1.1、1.2内部の遊びの調整は終了する(同13頁16行ないし15頁5行)。

(6)  機械が2つ以上前後に配置されたモジュール1.1、1.2(これらは互いにねじ結合される。)から構成される場合には、遊びの調整は、引き続き以下のように行われる。

工程3

各モジュール1.1、1.2の圧胴5.1、5.2における、工程2により調整されたギヤ2.1、2.2の位置は変えない。

工程4

ギヤ側の偏心ブシュ27を回動させて、第1のモジュール1.1の渡しドラム10.1のギヤ3.1の歯が、測定された出発時の遊びに応じて多少深くギヤ2.2の歯と噛み合うようにする。

これで2つの隣り合ったモジュール1.1と1.2の遊びの調整過程が終了する(同15頁6行ないし16頁3行)。

6  本願発明の作用効果は、ギヤ間に生じた遊びを所定の許容誤差範囲内に、きわめて厳密に、しかも簡単な形式で迅速に調整することができることにあり、その結果、組立時間を著しく減少せしめることができる。本願発明による装置は、直接隣接した2つのモジュールの駆動接続を形成するギヤ間の遊びを調整する際に特に有利に働く。ギヤを支承した各モジュールの、縦と高さの寸法の製作誤差を原因とする遊びは、簡単に補償することができる。

このようなモジュールは、例えば多色枚葉紙輪転印刷機の下方部分であり、その中に圧胴と渡しドラムとが支承されている(同6頁12行ないし7頁4行)。

第3  審決取消事由について

そこで、原告主張の審決取消事由について判断する。

1  取消事由1(本願発明の構成の予測可能性)について

(1)  最初に、引用考案の構成について検討するに、成立に争いのない甲第6号証(引用例)によると、引用例には次のとおり記載されていることが認められる。

ア 「本考案は印刷機、特に枚葉印刷機の受渡胴の軸受として使用する二重偏芯軸受装置に関する。」(2頁5行ないし7行)

イ 「最近にいたって印刷の精度の向上と関連し、歯車列における歯車相互間の多少のガタ、そして従来はそれ程問題とならなかった程度のガタが印刷の仕上りに相当の影響を与えるようになってきた。それでこのようなことに原因する印刷の欠陥(ズレ)を除くためには上述の歯車列の各歯車の相互のかみ合いのガタを小さくすることが必要であり、したがってそのような調節が可能な軸受装置が要求されるようになってきた。

本考案は上述の要求に応じ、軸芯位置調節可能な軸受装置を提供することを目的とする。」(2頁15行ないし3頁6行)

ウ 「第1図(10)は枚葉印刷機の全体機構の概略説明図である。ここに(11、21、31)は受渡胴、(16、26、36)は圧胴、(18、28、38)はゴム胴、(19、29、39)はそれぞれ版胴、(17、27、37)はインキ装置および湿れ水装置をそれぞれ表わしている。」(3頁12行ないし18行)

エ 「第3図に示すように、圧胴、受渡胴はそれぞれ軸に固定の歯車によって協働して駆動されるようになっていて、したがって、圧胴(16)、受渡胴(11)、圧胴(26)のかみ合い歯車に多少のガタがあれば第1色目の印刷と第2色目の印刷とでズレが生ずることは容易にわかるであろう。以下3色目についても同様である。本考案はこのような事態に対処して、受渡胴(11)および受渡胴(21)の軸受(4)および(5)を二重偏芯軸受とし、受渡胴(11)の軸と圧胴(16)、(26)の軸との間の距離、同様にまた、受渡胴(21)の軸と圧胴(26)、(36)の軸との間の距離を調節するようにしたものである。」(5頁3行ないし17行)

オ 「二重偏芯軸受装置(4)の詳細は第3図および第4図から明らかなように、受渡胴(11)の軸頸(6)は第1偏芯輪(7)によって軸承され、これにより第1偏芯機構を構成し、さらにこの第1偏芯輪(7)はその外側の第2偏芯輪(8)によって軸承され、さらに第2偏芯輪(8)はサイドフレーム(45、46)の孔(48)によって支持され、これにより第2偏芯機構を構成している。」(6頁1行ないし9行)

カ 「このように構成した二重偏芯軸受装置において、内側の第1偏芯輪(7)のみを回転させると、第5図において最もよく示すように、第1偏芯輪(7)の回転によって受渡胴の軸芯(60a)は(57)を中心として円弧を画いて動き(60b)にいたるであろう。この場合、受渡胴の軸芯(60)は(60~47)の線(57~47と見てもよい)の方向ではほとんど動かないのに対し、(60~51)の線(58~51と見てもよい)の上では(60a~60b)の(60~51)線に対する投影に相当する分、つまり第5図d1だけ動くのである。同様にして第2偏芯輪(8)の回転によって第5図で受渡胴の軸芯(60a)は(58)を中心として円弧を画いて動き(60c)にいたるであろう。そしてこの場合には受渡胴の軸芯(60)は(60~51)線(58~51と見てもよい)の方向ではほとんど動かないのに対し(60~47)(57~47と見てもよい)の線上では(60a~60c)の前記線上における投影に相当する分、すなわち第5図のd2だけ動くのである。」(7頁9行ないし8頁11行)

キ 「第1偏芯輪の回転によって受渡胴(11)と圧胴(26)との軸間距離のみを受渡胴(11)と圧胴(16)との間の軸間距離の実質的に変化なしに調節することができ、また、第2偏芯輪の回転によっては受渡胴(11)と圧胴(16)との軸間距離のみを受渡胴(11)と圧胴(26)と間の軸間距離の実質的変化なしに調節し得るのである。」(8頁20行ないし9頁8行)

ク 「そしてこの調節は受渡胴に接する胴の1つ1つに対して個別的にでき、または順次的に、または同時に可能である。」(12頁16行ないし19行)

上記記載によれば、引用考案は、多色枚葉紙印刷機において、第1色目の枚葉紙搬送機構を構成する圧胴と受渡胴との間及びその受渡胴と第2色目の枚葉紙搬送機構を構成する圧胴との間(第2色目と第3色目以降も同様)における、各歯車列の歯車相互の多少の遊びに起因する印刷の欠陥(ずれ)を回避するため、各歯車相互の噛み合いによる遊びを小さくすることを技術的課題とし、その解決のため、受渡胴とその前後に位置する2つの圧胴との間の各軸芯距離について、個別に調整することが可能な軸受装置を提供することを目的として、2つの圧胴の間に位置する受渡胴の軸受装置に二重偏芯軸受の構成を採用したものであることが認められる。

(2)  そこで、まず、本願発明における「モジュール」による構成の想到困難性について検討するに、

ア 成立に争いのない乙第1号証(新村出編「広辞苑(第4版)」株式会社岩波書店平成3年11月15日発行2538頁)等を参照するならば、本願発明が属する機械技術分野において「モジュール」とは、「装置・機械・システムを構成する部分で、機能的にまとまった部分」(上記「広辞苑」)を意味する用語であることは明らかであり(なお、乙第1号証は、本出願後に刊行された「広辞苑」の第4版であるが、その記載内容に照らし、本出願当時においても同じ意味の用語として理解されていたものと認めて差支えない。)、また、本願発明における「枚葉紙輪転印刷機」については、ゴム胴、インキ装置等のいわゆる印刷塔を、その構成の一部として当然に含むものであることは、原告の主張及び前記第2、5(1)、6の記載からも明らかである。

そうすると、当業者であれば、本願発明の特許請求の範囲の記載における「モジュール」とは、枚葉紙輪転印刷機についての「装置・機械・システムを構成する部分で、機能的にまとまった部分」、すなわち、単色枚葉紙輪転印刷機においては、胴とドラムを、枚葉紙の搬送のための機能部分として印刷機のサイドフレーム内の特定箇所にまとめて配置するとともに、印刷塔を、サイドフレームの他の箇所に配置して、一つの印刷機械システムとしての単色枚葉紙輪転印刷機を構成したものを意味し、また、多色枚葉紙輪転印刷機においては、1色毎に、単色枚葉紙輪転印刷機と同様の一つのシステムとしての印刷機を構成し、必要とする色数分の印刷機を結合するための単位となるものを意味するものと一義的に理解すると認められ、これを、原告主張のように、枚葉紙を搬送する胴と渡しドラムの全部を、サイドフレーム内で偏心ブシュ内に旋回可能に支承する「枚葉紙搬送装置」に限定して理解されるとは到底いえない。

なお、原告は、上記「モジュール」の意義について、本願明細書の発明の詳細な説明を参照すべき旨をも主張するが、上記のとおり、その意義は、特許請求の範囲の記載自体から明確というべきであるから、上記主張も失当である。

イ 一方、引用考案においては、1色目ないし3色目の印刷機構がそれぞれ受渡胴、圧胴、ゴム胴、版胴、インキ装置及び湿れ水装置を備え、各色の印刷機構が全体で1つの多色枚葉印刷機として構成されているものであることは、上記(1)のとおりである。

ウ そうすると、本願発明と引用考案とは、本願発明が、1色分毎に、渡しドラム、圧胴、その他の印刷機構からなるモジュール構成として、他色の印刷機構とは分離可能に構成されているのに対し、引用考案が、各色の印刷機構を一体不可分のものとして構成していることにおいて相違するものというべきことになる。

エ しかしながら、成立に争いのない甲第11号証(印刷技術一般刊行会編「印刷技術一般(改訂版)」(産業図書株式会社昭和44年2月15日発行375頁6行ないし8行)によると、「2色以上の多色刷を行なうためにはわが国ではユニット型のものが多く用いられる。すなわち1ユニットで1色を刷る機構のものを2基または4基と連結して順次に紙を通して2色または4色の印刷をする。」と記載されていることが認められ、また、成立に争いのない乙第2号証(日本印刷学会編「印刷事典」大蔵省印刷局昭和34年11月10日発行441頁左欄39行ないし右欄4行)によると、「ユニット」の項に、「輪転機のうちのひとまとめの印刷装置を示す単位。ユニットを2台以上連結して1組の印刷機械が構成される。たとえばタンデム型の枚葉紙オフセット印刷機・グラビア輪転機では、1色分のひとまとめの印刷装置を1ユニットといい、同時刷り式の両面オフセット輪転機・新聞輪転機では1色両面分のひとまとめの印刷装置を1ユニットとするのが普通である。そして以上のユニットを数台連結して、1組の印刷機が成り立つのであるが、このような機械をユニット型と呼ぶ。」と記載されていることが認められる。

上記によれば、1色分のひとまとめの印刷装置を1ユニットし、必要とする色数分だけのユニット装置を連結して印刷機械全体を構成することが、本出願前に周知の技術であったことが明らかであり、また、前記アからみるならば、このようなユニット装置は、本願発明の「モジュール」と技術的意義において同じものということができる。

オ そうであれば、本願発明において、印刷機械をモジュール構成とした点については、引用考案における多色印刷機に上記エの周知技術を適用し、引用考案の印刷機を1色毎に独立した構成としたものに相当するとともに、このような構成は、当業者において予測可能なものであったというを妨げないものというべきである。

カ 以上によれば、本願発明における「モジュール」が、当業者において引用考案から容易に想到できたものであるとした審決には、誤りがないことは明らかである。

(3)  次に、本願発明における偏心ブシュの配置の点について検討する。

ア 引用考案の構成は前記(1)のとおりであるが、引用考案のように、受渡胴とその前後に位置する2つの圧胴に設けられた3つの歯車間の遊びを、偏心軸受による歯車移動機構を用いて適切に調整する場合、1つの偏心軸受をもってしては、3つの歯車間の遊びを適切に調整できないことは機構上明らかであるから、その場合においては、技術原理として、2つの偏心軸受を必要とすることは当然のことである。

イ 引用考案は、上記の技術原理に基づいて、偏心軸受により、受渡胴及びその前後に位置する2つの圧胴に設けられた各歯車間の調整を行うに際し、上記技術原理を具体化したものとして、受渡胴の歯車に2つの偏心軸受を一体的に設けた二重偏心軸受を採用したものであることが明らかである。

しかしながら、上記アの場合において偏心軸受を2つ設けるための方法としては、上記イ以外には、3つの歯車のうちの2つの歯車を、偏心軸受によりそれぞれ個別に支承することしかあり得ず、また、そのことは、格別、想到困難なこととは認められないから、3つの歯車のうちの2つの歯車に偏心軸受を設ける構成は、当業者が前記技術原理から当然に導き出せる具体化技術であるということができる。

ウ 他方、本願発明は、枚葉紙を搬送する胴とドラムの全部が、各モジュールのサイドフレーム内における偏心ブシュ内に、旋回可能に支承された構成を採用し、この構成によって、サイドフレーム内の上記胴とドラムの駆動ギヤ間の遊びを調整するとともに、モジュールのドラムと、隣接するモジュールのサイドフレーム内に支承された胴との、駆動ギヤ間の遊びを調整するという技術的課題を解決したものであることは、前記第2から明らかである。

エ そうすると、本願発明と引用考案とは、その技術的課題において共通するものである上、本願発明と引用考案は、上記課題を解決のための手段である偏心軸受の配置において異なるものの、本願発明における駆動ギヤ間の調節の方法は、各モジュール内では、同所に設けた2つの偏心ブシュのいずれか一方の駆動ギヤを偏心移動させて行い、また、隣接するモジュールとの間では、上記の2つの偏心ブシュのうち偏心移動させなかった他方の駆動ギヤを、隣接モジュールの胴との調整のために偏心移動させて行うものである(前記第2、5)。

そうすると、これを、モジュール内のドラムと胴、このモジュールに隣接するモジュールの胴の3つの駆動ギヤ間の遊びの調整の点からみるならば、そのために関与する偏心ブシュは、モジュール内におけるドラムと胴の2つの偏心ブシュであることが明らかであり、それらは、前記イのとおり、前記アの技術原理から当然に導き出される具体化技術そのものに他ならないことが明らかである。

そして、このような具体化技術を多色枚葉紙印刷に適用し、引用考案のように各色間のギヤの遊びを調整するためには、各色の印刷機構の受渡胴と圧胴のギヤのすべてに偏心軸受を設けることを要することも当然に帰結されるところである。

オ そうであれば、引用考案における多色枚葉紙輪転印刷機の受渡胴に二重偏心軸受を設けた構成から、本願発明における受渡胴と圧胴のすべてに偏心ブシュを設けた構成を想到することも、当業者においては容易であったものというべきことになる。

(4)  以上(2)、(3)によれば、本願発明の、引用考案との相違点に係る構成は、引用考案から予測可能なものであったことが明らかであるから、本願発明の構成を引用考案から容易に想到することができたものであるとした審決の認定判断には、誤りはないものというべきである。

2  取消事由2(本願発明の作用効果の予測可能性)について

(1)  まず、原告は、本願発明が、引用考案に比べ、圧胴と渡しドラムとの間に生じたギヤの遊びを、所定の許容誤差内において極めて厳密に調整することができるという顕著な作用効果を奏するものであるとし、その具体的な内容として、「請求の原因」4(2)イのとおり主張する。

ア そこで、まず、本願発明に関する同イ(ア)の主張について検討するに、その主張に係る作用効果は、要するに、渡し胴の偏心ブシュの回動中心が、渡しドラムのギアの回動中心と、圧胴のギヤの回動中心とを結ぶ直線上に位置しているという、「零位置N」が特定されていることを前提とするものであることが明らかである。

すなわち、上記主張によるならば、本願発明においては、零位置Nと出発位置Aに基づいて、圧胴の偏心ブシュの回転による回動量及びそのギヤの新たな中心位置が、調整すべき遊びとの関係において幾何学的に容易に特定され、また、隣接する渡しドラムの偏心ブシュの回動量及びそのギヤの新たな中心が、零位置Nと、モジュール内の圧胴のギヤの中心位置と、渡しドラムのギヤの中心位置とにより規定される直線に基づいて、幾何学的に容易に特定され、更に、この偏心ブシュの回動後において、同一モジュール内の圧胴と偏心ブシュのギヤ間に生じる新たな遊びは、回動前のギヤの中心と偏心ブシュの中心とが零位置Nの直線上に位置していたことから、回動後のギヤの新たな中心(±の2箇所)が零位置を規定する直線を挟んで対称的に位置し、しかも、新たな中心(2箇所)を結ぶ直線が、零位置Nに対してほぼ直角をなすために、この新たな遊びは、極めて小さな値となるとするものである。

しかしながら、本願発明の特許請求の範囲の記載においては、本願発明の構成について、渡しドラムにおける偏心ブシュの回動中心が、渡しドラムのギヤの回動中心と圧胴のギヤの回動中心とを結ぶ直線(零位置N)上に位置するものとして限定されているものではなく、また、渡しドラム、圧胴のそれぞれに偏心ブシュを配置して歯車の遊びを調節する場合、必ず、上記零位置Nを前提として調整が加えられるものともいえないのであるから、結局、前記作用効果は、本願発明の要旨とする構成が奏するものとはいえないというべきである。

イ 次に、引用考案に関する「請求の原因」4(2)イ(イ)の主張について検討するに、確かに、引用考案においては、上記主張にあるように、二重偏芯軸受の回動による移動後の受渡胴の軸芯の位置が4通りとなるものであることが窺えるが、その移動状況からみるならば、4通りの軸芯の移動の予測がまったくできないというものでもないし、また、前記アのとおり、本願発明における特許請求の範囲の記載からは、本願発明において、偏心ブシュの回動後、ギヤの新たな中心を容易に特定できるという作用効果が生じるものともいえないところであるから、引用考案の作用効果が、本願発明の上記作用効果に比べて、顕著に劣るものとも認め難い。

ウ 以上からみるならば、本願発明が、引用考案に比べて、圧胴と渡しドラムとの間に生じたギヤの遊びを厳密に調整するという予測し難い作用効果を奏するものとは認め難いところであるから、原告の上記作用効果の主張は理由がないものといわざるをえない。

(2)  次に、原告は、本願発明が、圧胴と渡しドラムとの間に生じたギヤの遊びを簡単、迅速に調整することができる、隣接するモジュール間のギヤの調整に優れている、ギヤ間の遊びの調整、印刷装置の組立ての時間、労力を大いに節約できるとの顕著な作用効果を奏するとし、その具体的な内容として、「請求の原因」4(2)ウのとおり主張する。

しかしながら、引用考案に係る多色枚葉紙印刷機においても、印刷する色毎に圧胴と受渡胴が設けられ、それぞれの色及び他の色との関係において、圧胴と受渡胴のギヤの遊びを調整できるものであり、また、前記1(2)エ、オのとおり、1色分のひとまとめの印刷装置を1ユニットとし、必要とする色数分だけのユニット装置を連結して印刷機械全体を構成することは、本願前に周知の技術であったものであるから、原告の主張に係る上記作用効果の具体的内容は、当業者において、引用考案及び周知の技術から予測できたものというべきである。

したがって、原告の上記主張も失当といわざるをえない。

(3)  更に、原告は、本願発明について、印刷すべき色数や故障の発生に応じて、モジュールの取り外し、組合わせが可能である、多数のモジュールを並列させてその間のギヤの調節を行うことにより、多色印刷に極めて有利である、枚葉紙の走行、引渡等に関する運転テストを、他のユニット構成部分とは別個、無関係に行うことができる、枚葉紙の搬送部分と印刷塔をそれぞれ別個に製作し、組み立てることが可能であるとの顕著な作用効果をも奏すると主張する。

しかしながら、上記主張に係る作用効果は、本願発明の「モジュール」が、単色又は多色枚葉紙輪転印刷機の印刷塔と分離可能に構成されていることを前提とするものであるが、本願発明における「モジュール」が、必ずしも、枚葉紙輪転印刷機から印刷塔部分を除いた、枚葉紙を搬送するための機能的部分に限定されるものでないことは、前記1(2)アのとおりである。

そうすると、原告の主張する上記作用効果は、本願の要旨とする発明に基づくものとは認められないところであるから、原告の上記主張も失当というべきである。

(4)  したがって、本願発明の作用効果についても、引用考案から容易に予測し得たものと認めるのが相当であるから、その点についての審決の認定判断にも誤りはないものというべきである。

3  以上によれば、審決の認定判断は正当であり、審決には原告主張の違法は存しないものというべきである。

第4  よって、原告の本訴請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担及び上告のための付加期間の定めについて行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条、96条2項を適用して、主文のとおり判決する。

口頭弁論終結の日 平成10年2月17日

(裁判長裁判官 竹田稔 裁判官 持本健司 裁判官 山田知司)

理由

(手続の経緯・本願発明の要旨)

本願は、昭和62年6月10日(優先権主張1986年6月10日、1987年2月12日、ドイツ連邦共和国)の出願であって、その発明の要旨は、出願当初の明細書及び図面の記載からみて、特許請求の範囲第1項に記載された次のとおりのものと認める。

「単色または多色枚葉紙輪転印刷機で枚葉紙を搬送する胴とドラムの駆動ギヤ間の遊びを調整するための装置であって、胴とドラムの軸が枚葉紙輪転印刷機のサイドフレーム内で高さの異なる2つの平面上に交互に支承された形式のものにおいて、放葉紙を搬送する胴(5.1;5.2)およびドラム(10.1;10.2)の全部が各モジュール(1.1;1.2)のサイドフレーム(7.1;7.11;7.2;7.22)内で偏心ブシュ(16;27)内に旋回可能に支承されていることを特徴とする、枚葉紙輪転印刷機で枚葉紙を搬送する胴とドラムの駆動ギヤ間の遊びを調整するための装置。」

(引用例)

これに対し、原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に日本国内において頒布された刊行物である、実願昭48-102529号(実開昭50-48041号)の願書に添付した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフイルム(以下、引用例という。)には、次のようなことが図面とともに記載されている。

枚葉印刷機の受渡胴の軸受として使用する二重偏芯軸受装置に関すること(明細書第2ページ第5行~第7行参照)、受渡胴(11)の軸頸(6)は軸受け(4)に軸承され、さらに軸受け(4)はサイドフレーム(45、46)の孔(48)に支持され、同様に第1の胴(圧胴16)および第2の胴(圧胴26)はそれぞれ両端の軸頸(15、25)が軸受けメタル(13、23)を介してサイドフレーム(45、46)に支持されていること(明細書第3頁第20行~第4頁第7行参照)、受渡胴(11)はその軸頸(6)の延長部に固定して歯車(2)を有し、圧胴(16)は軸頸(15)の延長部に固定して歯車(12)を有し、また、圧胴(26)はその軸頸(25)の延長部に固定して歯車(22)を有しているので、二重偏芯軸受装置(4)を動かすことによる受渡胴、圧胴間の軸間距離の調節によって、受渡胴の歯車(2)と圧胴(16)の歯車(12)との間のかみ合いの調節、ガタの消去または受渡胴の歯車(2)と圧胴(26)の歯車(22)との間のかみ合いの調節、ガタの消去ができることになり、これらのことは個別にもできるし、また順次的にもできることになること(明細書第10頁第14行~第11頁第8行参照)、圧胴(16、26、36)と受渡胴(11、21、31)が高さの異なる2つの平面上に交互に位置していること(図面参照)

(対比)

そこで、本願発明と引用例に記載されたものとを比較すると、引用例の「圧胴と受渡胴16、26、36、11、21、31」は本願発明の「胴とドラム」に相当するから両者は、「単色または多色枚葉紙輪転印刷機で枚葉紙を搬送する胴とドラムの駆動ギヤ間の遊びを調整するための装置であって、胴とドラムの軸が枚葉紙輪転印刷機のサイドフレーム内で高さの異なる2つの平面上に交互に支承された形式のものにおいて、枚葉紙を搬送する胴およびドラムがサイドフレーム内で偏心ブシュ内に旋回可能に支承されていることを特徴とする、枚葉紙輪転印刷機で枚葉紙を搬送する胴とドラムの駆動ギヤ間の遊びを調整するための装置。」

である点で一致する。

また、次の点で相違する。

相違点

本願考案は、枚葉紙を搬送する胴およびドラムの全部が各モジュールのサイドフレーム内で偏心ブシュ内に旋回可能に支承されているのに対して、引用例のものは、圧胴は固定され、受渡胴が二重偏芯軸受で支承されている点。

(当審の判断)

上記相違点について検討する。

調節機構をまとめて配置するか分散して配置するかで格別の効果の差が見いだせず、引用例の二重偏芯軸受は隣接する二つの圧胴に対して他方にほとんど影響を与えずにそれぞれ調節できるものであり、本願考案の場合もドラム(10.1)を調節する際に、新たな、小さな遊びyが生じるので、ギヤ間の遊びの調節の効果についても格別の差が見い出せない。さらに、二重でない偏芯軸受けは周知技術(一例として実願昭56-38243号(実開昭57-151740号)の願書に添付した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフイルム参照)であるから、枚葉紙を搬送する胴およびドラムの全部をサイドフレーム内で偏心ブシュ内に旋回可能に支承させることは当業者が容易になし得る程度のことである。また、モジュール形式で支承する点でも格別の効果が認められず、当業者が容易になし得る設計事項である。

そして、本願発明の効果も、上記引用例に記載されたことと周知技術から予測される程度のものに過ぎない。

(むすび)

したがって、本願発明は、引用例に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものと認められ、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。

別紙図面(1)

<省略>

<省略>

図面の簡単な説明

第1図はモジュール構造の下方部分を、この中に支承された、多色枚葉紙輪転印刷磯の枚葉紙を案内する胴もしくはドラムのギヤとともに示した略示図、第2図は調整可能な偏心ブシュに支承された胴またはドラムを示した図、第3図は第1図の平面図、第4図は1モジュール内に配置された2つの胴もしくはドラムの位置を示した略示図である。

1.1、1.2…モジュール、2.1、2.2、3.1、3.2…ギヤ、4.1、4.2、9.1、9.2…軸、5.1、5.2…圧胴、6.1、6.11、6.2、6.22、11.1、11.11、11.2、11.22…偏心軸受、7.1、7.11、7.2、7.22…サイドフレーム、8.1、8.2、13.1、13.2、17、17.1、17.2、17.3…中心、10.1、10.2…渡しドラム、14…支承孔、16、27…偏心ブシュ、18…つは、21…長孔、22…ワッシヤ、23…固定ねじ、24…軸受、25.1、25.2…外壁、26…円筒ピン、28、29…みぞ、29.1、29.2…みぞ内面、30、30.1、31、31.1、32…直線、A…出発位置、E、F…平面、N…零位置、e…偏心半径、rピッチ円半径、rA…外半径、rE…内半径、rI…半径、x、y…調整量、λ…比、α…配置角度、β…傾斜角度、γ…角度、ψ…調整角度。

別紙図面(2)

<省略>

<省略>

図面の簡単な説明

第1図は枚葉印刷機の全体機構を説明的に示す側面図で、この中の受渡胴に本考案の二重偏芯軸受装置が組込まれる。第2図は印刷機の機構の説明的側面図てあつて、本考案の二重偏芯軸受装置を実施する他の例を示している。第3図は第1図の3-3線に添つての展開的説明図で軸受装置の断面および歯車の係合の状況を示している。第4図は本考案の二重偏芯軸受装置の詳細を示す側面図で、同時に第1図の一部分の拡大図である。第5図は本考案の二重偏芯軸受装置の動作と、これに伴なう受渡胴軸芯の位置の変化を示す説明図である。

〔主要部分の符号の説明〕

印刷機------------------------------------10

受渡胴------------------------------11、21

受渡胴の軸芯------------------------------60

受渡胴の軸頸--------------------------------6

第1偏芯輪----------------------------------7

第1偏芯機構----------------------------6、7

第2偏芯機構------------------------6、7、8

第2偏芯輪----------------------------------8

第1の胴----------------------------------16

第1の胴の軸芯----------------------------47

第1偏芯機構の偏芯の方向------------60-57

受渡胴の軸芯と第1の胴の軸芯を結ぶ線の方向--------------------60-47

第2の胴----------------------------------26

第2の胴の軸芯----------------------------51

第2偏芯機構の偏芯の方向------------60-58

受渡胴の軸芯と第2の胴の軸芯を結ぶ線の方向--------------------60-51

別紙図面(3)

<省略>

別紙図面(4)

<省略>

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